山口地方裁判所 昭和32年(行)4号 判決 1958年9月04日
山口市大字下宇野令二千三百十九番地
原告
山口ポインター販売有限会社
右代表者代表取締役
山本隆二
右訴訟代理人弁護士
田中堯平
山口市今道山口税務署内
被告
山口税務署長
飯橋恒三郎
右指定代理人
西本寿喜
加藤宏
田原広
美井富美夫
笠行文三郎
米沢久雄
森田政治
右当事者間の昭和三十二年(行)第四号更正決定取消請求事件について当裁判所は昭和三十三年七月十日終結した口頭弁論に基き次のとおり判決する。
主文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告が昭和二十九年十二月二十九日頃なした昭和二十八年度所得金額三十七万八千四百円、税額金十五万八千九百二十円及び過少申告加算税額金七千二百円とする旨の処分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めその請求の原因として、
一、原告は昭和二十七年一月十二日被告から法人税の青色申告書提出の承認を受け、爾来青色申告をつづけて来たが、昭和二十九年五月二十五日に昭和二十八年四月一日以降昭和二十九年三月三十一日迄の間の昭和二十八年度の利益は金三万四千百六十八円であるとして決算報告書及び法人税額の確定申告書を被告に提出した。
二、然るに被告はこれに対し更正決定を行い推定課税をなし、(処分の日時は不明)右通知は昭和二十九年十二月二十九日原告に到達した。
三、そこで原告は昭和三十年一月五日被告に対し再調査を請求したが、同年三月三十一日附を以つて棄却され同年四月二日その通知を受領したので、同年四月五日広島国税局長に対し審査を請求し原告の所得金額を六万七千十六円と補正したけれども昭和三十二年二月十六日附を以つて棄却され同月二十日その通知を受領した。
四、しかしながら原処分である更正決定は
(一) 青色申告書提出の承認の取消をせずに更正決定をなした点
(二) 右更正決定に理由の記載がない点
(三) 右更正決定に日附の記載がない点
(四) 青色申告書提出の承認を受けている者に対し推定課税をなした点
において違法であるから取消さるべきである。
よつて本訴に及ぶ次第である。
と述べ、被告の本案前の抗弁を認め、本案の抗弁を否認し、立証として甲第一号証、同第二号証の一乃至五、同第三乃至第六号証同第七号証の一、二、同第八号証を提出し、乙第一号証の認否をしない。
被告指定代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、本案前の抗弁として被告は本訴における取消の目的である更正決定を昭和三十三年二月二十一日取消し同日原告に通知したから同日以後右決定は存在しなくなつたので本訴の利益は消滅した。よつて本訴請求は不適法として却下せらるべきであると述べ、本案の答弁として、原告の主張事実中
第一、第二、第三項は認める
第四項は否認する
と述べ、本案の抗弁として
一、被告は原告会社の昭和二十八年四月一日以降昭和二十九年三月三十一日迄の間の事業年度の帳簿書類について調査したところ原告会社の備付帳簿が法人税法第二十五条第八項第一号及び第三号に該当していることが判明したので原告会社の青色申告の承認は適当でないと判断し、昭和二十九年十二月二十五日に右承認の取消処分をなし、同日右取消決定通知を原告会社の住所に宛て発送した。
二、右取消処分後被告は原告会社に対して更正決定を行つた。従つて更正決定をなした時には原告会社は青色申告法人以外の法人であつたから右更正決定の通知書には更正の理由を記載しなかつたのである。
三、右更正決定における原告会社の所得金額は原告会社の昭和二十八年度の売上額千三百四十二万九千円に同業法人の利益率三、二%を乗じて算出した営業利益四十二万九千七百二十八円から営業外損失五万千二百三十円を控除した三十七万八千四百九十八円として計算したのであるから、合理性において欠けるところはない。
と述べ、立証として乙第一号証を提出し、甲第二号証の一の成立は否認する、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。
理由
被告の本案前の抗弁について判断するに、被告が昭和三十三年二月二十一日、本訴における取消の目的である昭和二十九年十二月二十九日頃の更正決定を取消し、右取消処分が同日原告に通知されたことは当事者間に争がない。抗告訴訟を提起するには抗告訴訟の対象となるべき行政行為が存在するを要することは勿論であるが、訴訟係属中においても行政庁は該行政行為を取消すことも許されるのであつて、取消によつて当該行政行為は存在しなくなり、その取消を求める訴はその利益がなくなるものと解せられる。従つて、本件の訴はその利益がないから不適法として却下すべきである。
そこで本件の訴訟費用の負担について考えてみるに、訴訟費用は敗訴者の負担となるのが原則であり、訴提起後訴の目的を欠くに至つた場合にも原告敗訴となるけれども、その訴の目的の消滅の原因が被告側にある場合には原告の権利の伸張若は防禦に必要な行為に該当するものとして被告に訴訟費用を負担せしむべきであると解せられるところ、前示認定のとおり本件における原告の敗訴の理由は被告が本訴の目的である行政処分を取消した結果訴の利益を欠くに至つた点に存するのであるから、訴訟費用は被告に負担せしむべきである。
よつて、その余の判断を俟つまでもなく、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 永見真人 裁判官 黒川四海 裁判官 丸尾武良)